電車でこっくりこ

電車の中。
隣に座った乗客が、居眠りを始め、こっくりこっくりするたびに頭が自分の肩の上に、もたれかかる……。
よく遭遇する場面である。
自分が寄りかかられる立場になることもあれば、そういう光景を目撃することもある。

 もたれかかられる方は、すごく気になる。
しかし相手は睡眠中。悪意でやってるわけでもないし、わざとでもない。
わかってはいるのだが、それでも気がそぞろ……。早く降りる駅が来ないかな。

 はっきりと「寄りかからないでください」と言っている人を、今まで見たことがない。
身づくろいを整えるふりをして、肩を揺すり、相手の覚醒を試みる。
あるいは電車の揺れに乗じて、からだをずらし、もたれかかった頭をあっちへ押し戻そうと試みる。
 それらの仕草は、あくまでも、さりげなく、だ。
こんな小さなことを気にしていることを、周囲に気取られたくない。
でも、枕にされた状態に甘んじているのも、やりきれない。
葛藤の時間―。
 それがわかるので、目の前のシートで繰り広げられる静かな戦いに、
部外者もさりげなく目をそらし、気付かないふりをする。

 不思議なもので、もたれかかる方向は決まっている。右なら右、左なら左。
本人の姿勢の問題か、倒れ癖というものがあるものなのか。
抵抗が功を奏して、相手が一瞬目を覚ましたのも束の間、睡魔というもの、
一旦とりついたら、なかなか去っていかない。
再びこっくりこ、こっくりこが始まり、気付けば再び肩の上が重くなっている。
今度はあっち側に寄りかかってよ、という期待も大抵空しく終わる。

 駅名を告げるアナウンスが流れる。
と、あれほど熟睡しているかのように見えたのに、咳払い肩ゆすり、
あらゆる抵抗に無頓着のように見えたのに、乗客というもの、この車内アナウンスにはすこぶる敏感である。
ハッと目覚めると、まるで人格が入れ替わったように、しゃきっと立ち上がり、
開いたドアからホームへと出て行く。
不本意ながら枕を貸したお隣さんは、狐につままれたような気持で取り残されることになる。

 先日もこうした場面を見かけた。
居眠りしているのは、女学生。
もたれかかられているのは、おじさん。
軽く咳払いするも、効果なし。吊り広告を眺めるふりをするが、目が泳いでいる。
本当に困惑しているのがわかる。
 こちらも何となく気恥しく、あまりそちらを見ないようにしたのでした。

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